家族が病院に長期入院を余儀なくされたとき知っておいた方がいいことをまとめました。私の母親が総合病院に入院して、長い闘病の後亡くなりました。そんな経験の中で知り得た病院の入院時の心得について、知っておいた方がいいと思うことをまとめました。高齢化がますます進む中で医療費の増大は大きな社会問題です。このとてもセンシティブな問題に対する国、厚生労働省の政策がまともに母親の闘病生活に影響を与えました。自分もとても考えさせられ、老後の生活や終末をどう迎えるべきかを考える始めるきっかけになりました。
病院の長期入院をできなくする費用の逓減性
入院した時に病院の良心的対応を期待すべきですが、病院側の事情による対応もあります。まずは病院も慈善事業ではないので利益を上げないと存続できないという基本的なことは胆に銘じておく必要があります。ですから入院したときに急に転院を促されても慌てないように病院側の事情を知っておくことが大切です。病気やケガで総合病院に入院したからまずは安心と思う時代ではないようです。昔のように総合病院にいつまでも入院させてもらえる時代ではないのです。入院して少し経てば転院しないといけなくなることは患者としても知っておくべきです。母親の場合も3ヶ月弱の入院期間中に何度も転院を求められ、ソーシャルワーカーと打ち合わせをして転院先を見学にも行きました。母親の場合は転院できるかなと思うと病状が悪化して、数回の転院のタイミングがありましたが結局転院はできませんでした。
転院を求める病院側の事情としては「入院基本料の逓減性」ということがあります。現在の医療制度では厚生労働省が推奨し、国会で決めたルールが有ります。入院して最も早く訪れる節目が2週間目です。具体的には14日を超える入院において、1日の費用が大きく下がります。入院初期には入院基本料に加算金が上乗せされるのですがその金額が下がります。そして次の節目が1ヶ月です。具体的には30日を超えると加算金が0になります。そして最後が有名な「入院の90日ルール」とか「3ヶ月以上は入院できない」という話です。91日以上入院している患者は「特定患者」と呼ばれ、どの病院でも入院基本料が安くなります。しかも検査代や薬代も含めたコミコミ価格です。これだと病院は大赤字です。ですから入院90日目までになんとか退院もしくは転院させようとするのです。
なぜ医療制度で入院基本料の逓減性を行なっているのでしょうか。これは、医療費の増大という我が国の悩みに関係しています。長期に入院されると病院は得られる利益が少なくなるから、早期に治療を進めたうえで退院を促しましょうという流れになっています。もう一つは病院のベッドにも限りがあるということです。もし、救急車を呼んだ時に受け入れる病院のベッドが全て埋まっていたらどうなるでしょうか?行くところが無く直ぐに必要な治療が受けられません。そのようなことがあると、命に関わることにもなりかねません。いつでも急な患者さんを受けるためにベッドは開けておく、そのために必要な治療を効果的に行い、早期の社会復帰を目指すことが、求められる医療という事になります。しかし加療が必要な患者さんを無理やり転院・退院させることはありませんが、病院側の転院を求めるプレッシャーも結構あることも事実です。
病院の治療の過程での役割分担
母親が総合病院に長期間入院してその間に何度も転院を求められたりして、ソーシャルワーカーと転院先を相談しているときに病院には治療の過程での役割分担があることを初めて知りました。病院は治療の過程で急性期→回復期→慢性期と、大きく3段階に分かれるということです。私の母親が入院していたのも急性期の総合病院でした。急性期の病院には絶えず多くの患者さんが外来で診察を受けたり、救急車が一日に何台も来ます。急性期の病院で提供される医療は、高度な治療や今すぐ必要な医療を提供しています。医療の業界では、急性期(きゅうせいき)医療と呼び、緊急性を要する患者さんに対して提供される医療という意味合いです。急性医療を提供される病院には、急な患者さんが救急車で運ばれて来ます。その患者さんを受け入れせずに、もう少し居たいという患者さんを入院させておくことは病院としての能力が発揮されていると言えません。急性医療を提供する病院の機能として、急患を受け入れられる体制を維持するということは大切な取り組みなのです。
急性期病院で症状が安定すると早期に退院するのですが、在宅での療養に不安がある場合があります。もう少しの入院治療で社会復帰できるような回復期の病院として「地域包括ケア病棟」があります。ここでは心身が回復するよう医師や看護師、病棟専従のリハビリテーション科の スタッフ等により在宅復帰に向けて治療・支援を行っていきます。 しかし急性期病院ほどの高度な医療行為は受けられません。容態が悪化して高度な医療行為が必要になった場合は前の急性期病院に戻る場合もあるようです。地域包括ケア病棟の中には総合病院クラスの大きい病院もあり、急性期医療もしている病院もあります。ただ急性期医療ができても病院内で明確に地域包括ケア病棟と分かれているので実際は高度医療は受けられないようです。ソーシャルワーカーから地域包括ケア病棟の一覧表を渡されて、いいと思うところをネットなどで調べて2~3ヶ所選びます。そうするとソーシャルワーカーが先方の受け入れ可能かどうかを問い合わせてくれます。受け入れ可能であれば病院によっては事前見学ができるようです。ただこの地域包括ケア病棟に入院できる期間は最大で2ヶ月です。
地域包括ケア病棟の2ヶ月間で回復できないと慢性期の療養病床に移ることになります。療養病床には患者の要介護状態により病院の療養病床、老健、有料老人ホームなどがあります。まだまだ重篤の状況で回復の可能性がなければ病院の療養病床になります。病院ですから最低限の医療行為と看護スタッフによる喀痰(かくたん)吸引や点滴、24時間の看取り・ターミナルケアには対応しています。しかし地域包括ケア病棟と同じく高度な医療行為は受けられません。この場合もソーシャルワーカーから療養病床の一覧表を渡されて、いいと思うところをネットなどで調べて2~3ヶ所選びます。そうするとソーシャルワーカーが先方の受け入れ可能かどうかを問い合わせてくれます。受け入れ可能であれば病院によっては事前見学ができるようです。重篤で手の施しようのない患者の場合はここが終末医療の病院となります。
病院・医師・看護師の問題
最後に母親の終末治療に携わって考える病院・医師・看護師の問題を書きたいと思います。まず病院についてですが、誰でも評判のいい大きな総合病院に入院したいものです。総合病院のいいところはあらゆる病気の専門家がそろっているということでしょう。やはり医師の専門範囲には限りがあります。総合病院ならば検査して見つかった悪いところを治療してもらう診療科があって、入院中にその診療科範囲外の問題が起こっても、あらゆる診療科がそろっていれば安心です。総合病院の評判はインターネットで調べることができる程度で実際のところは入ってみないとわからないと思います。
ただ注意しないといけないのは院内感染です。どんなに大きな総合病院でも院内感染は発生します。病院には、悪性腫瘍など消耗性疾患の患者や、手術等の感染リスクの高い処置を受けた患者、また化学療法や、臓器移植後に免疫抑制剤の投与を受け感染防御能(のう:能力、働き)が低下している患者など、様々な病原体の感染に対する抵抗力が低下した、いわゆる易感染性宿主が多くいて、感染症が発生しやすい特殊な環境と言えます。その病院内で細菌やウィルス等の病原体に曝露(ばくろ:さらされること)して生じた感染は、全て院内感染となります。病原体によって発病までの潜伏期間が異なりますが、一般に入院して3日目(48時間以上)以降に発病した場合を院内感染とみなしています。病気を治すつもりで入院した病院で院内感染して悪くなったでは目も当てられません。しかし院内感染で亡くなる患者も結構いるという認識は持っておいた方がいいと思います。
そして最後に医師と看護師の問題です。入院すると医師が1人担当になります。この医師の良し悪しでかなり患者のその後を左右することになります。いい医師であればいいのですが、悪い医師に当たったりすると大変です。担当の医師が誰になるかでその患者の生死が決まると言っても過言ではありません。また一度決まった担当医師は患者の意向では変えてもらうことはできません。ただ担当医師がその患者を全てフォローはできませんから、宿直の医師や他の診療科の医師も関係はしてきます。しかし医師の世界では担当医師が絶対ですから、他の医師に意見を求めても担当医師から聞いてくださいということになります。ですからもし悪い医師にあたってしまったときは遠慮なく苦情を言って、その上司の医師にもぶつけるべきです。病状の説明を求め、素人考えでもいいのでもっと積極治療や検査を要求していくべきです。担当医師には患者の家族として不満足な診療があれば意見やお願いをするべきです。そうでもしないと医師は動きません。また看護師についてもやはり優秀な看護師とそうでない看護師は存在します。看護師にも能力差があることも認識しておくべきです。能力の高い看護師を見つけて、実際の病状や病人のケアについてそれとなく聞いてみるといいと思います。看護師は責任を負いたくなく、医師の手前勝手に自分の意見言いません。しかし優秀な看護師であれば、自分に自信があるのである程度のことは聞けると思います。
病院の入院まとめ
病院の入院時の心得をまとめました。病院に長期入院ができないように、入院基本料が2週間、1ヶ月、90日を節目に段階的に安くなる逓減性があること。病院は治療の過程で急性期→回復期→慢性期で区分され、それぞれの段階で転院先が変わること。知っておいて下さい。