新しい家を建てるときに木材にかかる費用は大きいというイメージが誰にもあると思います。ですから木材の質を落とせば費用の大幅な削減ができると思いがちです。しかし木材の価格は為替の変動で昔とあまり変わらないし、高価なシステムキッチンやユニットバスで木材の金額が占める割合が低下しました。木材の費用は建築総額の10%程度にすぎません。内装にたくさん木材を使った場合でも15%程度です。
一般の住宅では坪あたり2~3本使われている、1等材と言われる杉の柱(3m×10.5cm角)は、1本3,000円~4,000円程度です。同じく1等材である青森ヒバの土台(4m×10.5cm角)が、1本約8,000円程度です。国産材の価格は、平成になり下がり続け、現在では輸入材よりも安い価格で取引されてもいます。こうした価格水準では日本の森林業が成り立っていきません。そのため林業が疲弊するという、悪循環に陥っています。安い外材との競争に引きずられた価格が環境破壊を助長している現実を認識しないといけません。しかし建築の見積もりでは材木代金のほかに人件費や諸経費が加算されているのでその金額は総工費の40~50%に膨らみます。ですから木材の価格が実際には安くても高いと思ってしまうのです。
安い木材の探し方
構造や下地に使用する木材の概算価格を算出する方法があり、家を建てるときにやってみると業者との折衝の参考になります。まず柱1本の価格に坪数をかけ、さらに2.5倍したものをAとします。次に土台1本の価格に坪数をかけたものをBとします。AとBを合計し、それを3倍したものが概算価格となります。例えば30坪の建物の場合は次のとおりです。
柱1本4,000円×坪数30×係数2.5=30万円(A)
土台1本8,000円×坪数30=24万円(B)
{(A)+(B)}×係数3=162万円
ただし間取りや構造上特殊な材が必要な場合は割増しになります。また内装に使用する木材の場合は、和室の数や使用面積、グレードに大きく左右されるので単純概算はできません。
木材の安いものを選んでも安全性や性能を落とさない方法があります。木材の値段を決定する要因には、性能や性質面のほかに流通形態や外観が関係するので、こうした部分で工夫する余地があります。たとえば節の有無も価格に影響します。内装材や化粧材は表に節を出さないように使われ、柱も無節の面がいくつあるかで価格が大きく違ってきます。その理由の大半は美観の問題です。大きな節はときに曲がりや強度低下の原因になりますが、よほど大きな場合を除いては、高価な無節にこだわる必要はありません。大工さんの見栄で無節を勧められたら、きっぱり断るべきです。また乾燥に伴うひびや裂けの発生で価格が下がる場合もあります。裂けによる強度の低下を懸念する方がいると思います。しかし未乾燥で裂けのない木材より、多少裂けていてもしっかり乾燥しているほうが、強度的にはずっと優れています。木材の強度は横断面積、つまり太さによって決まるので、縦に裂けが入っていても、それによる横断面の欠損はほとんどありません。ただし、斜めに発生した裂けと腐れの場合は強度の低下をもたらすので注意が必要です。そして流通や価格システムを知って、それぞれの事情や好みに合った賢い選択が必要です。
国産材にこだわる理由
日本では1960年ごろから円高で輸入材が値下がりし、国産材より割安な値段で買えたため丸太の輸入量が急増し、製材も合わせて世界一の輸入国になりました。現在では木材需要の約8割を輸入に頼っています。外材は乱開発のものもあり、運搬で二酸化炭素を大量に排出します。腐れに弱い木材を夏の湿度が高い日本に輸入すれば、薬剤処理をする必要が生じて健康住宅にはそぐわないことになります。木材は育った土地の気候風土の影響を受けて成長しており、地域の産物を使うのが望ましいのです。ですから今こそ国産材を使用すべきだと思うのです。
環境全体への影響に目を向ければ、国産材の利用がいかに意味あるかがはっきりします。第一に輸入材が増えれば、相手国の森林破壊につながります。日本のニーズで外国の森林を伐採させて輸入し続けたためにハゲ山になり洪水や土石流などの被害をもたらします。安いというだけでむやみに海外の貴重な木材を使うのは、形を変えた侵略行為と言えるかもしれません。第二に日本の林業が低迷すれば、森林も衰退します。国内での伐採量を減らすと森林が衰退するというのは一見矛盾するように聞こえるし、実際「森林保護のためにはなるべく木を切らないほうがいい」と思う人が多いと思います。しかし木は老齢になると成長力がなくなり、二酸化炭素を固定しなくなります。こうした木は伐採したほうが他の木の成長を助けるし、その場所に植林すれば森林の有効活用になります。木を切り、植え、育て、商品にする人がいなければ森林はできないし守れません。従って適切な管理のもとで国産の木材を市場に流通させる必要があります。木材を安く使うだけでなく、森林再生のためのコストを保証していくべきなのです。
戦後の国家的な植林事業によって山には木が生い茂り、飛行機から日本列島を見るとなんと緑の多い国であることがわかります。森林は成長過程で光合成し、温暖化のおもな原因物質である二酸化炭素を吸収します。吸収量は森林1ヘクタールあたり年間20~30トンにもなり、その約1.3倍の量の酸素(1ヘクタールで約60人分)を供給するのです。また長い時間をかけて農耕に欠かせない土壌をつくり、地下水を涵養して下流域の洪水や渇水を防ぎ、表土の崩壊による河川と海の汚れを最小限に抑える働きがあります。農業も沿岸漁業も健全な森林の存在のうえに成り立ち、その恩恵は計り知れません。しかしその森林に一歩足を踏み入れると、人工林は手入れを放棄されていることがわかります。間伐がされていないため、緑のダムとしての機能が低下しているのです。間伐しないと日光が届かなくなり、下層植物が育たず、保水力をなくした土が露出して、流れ出してしまいます。亜熱帯的な豪雨が降ると、雨水を保持できなくなり、大洪水をもたらします。ですから森林を適正な状態に戻すことが急務です。森林を適切に管理して環境を整え、住宅に木材を使うことで、山への資金を循環させることが求められているのです。一般に森林は再生可能な資源と言われています。しかし利用と再生のサイクルやコストのバランスが考慮されなければ、どんどん減ってしまうのです。
日本の森林面積はほぼ一定ですが、木の蓄積量は増え続けています。つまり国内の木が切られていないわけで、国内の木材需要を十分賄えるにもかかわらず外材に押され続けているのです。国の植林事業による人工林はすでに収穫期を迎えていますが売れないために森林の手入れができずに伐採もされずに放置されています。健康によい木材で家を建てても、周囲の環境の変化を招いては意味がありません。これまで消費者は、環境破壊や危険な建材と引き替えに便利さや経済的利益を手に入れてきました。いまこそこの価値観を変化させるときです。国産材の使用には若干のコスト高や乾燥方法の問題など課題も多いですが国産材をできるだけ使っていくことが大切です。多くの木材では、人工乾燥という石油を燃やして乾燥させる手法が用いられています。環境に優しい木材を使用しているのに、これでは本末転倒です。また国産材を多く使う伝統工法は現在の建築基準法では規制が厳しく使いきれていません。使用する側が天然乾燥材を求めて、適正な価格で購入すれば、製材する側に材木のストックができ、われわれも良材を手にすることができるのです。
最近独立した第3者が環境保全や社会的利益などある一定の基準を満たした森林を認証し、そこから産出された木材や製品にロゴマークを付けることで消費者に浸透させる動きが広がっています。森林協議会(FSC、本部メキシコ)は、全世界の森林を対象に、ラベリングを伴う形で実施している唯一の組織です。1993年にイギリスの環境保護団体や産業界などの代表が国土を保全するために発足させた非営利団体です。消費者意識の高まりでFSCマークがポピュラーになっています。セミナーや展示会も開かれるようになり、日本でも各地に認証林が誕生しています。
安い木材と国産材まとめ
家づくりの木材の費用は建築総額の10%程度にすぎません。木材の強度は太さで決まるので、無節や縦裂けにこだわる必要はありません。森林を適切に管理して環境を整え、住宅に木材を使うことで、山への資金を循環させることが求められているのです。
参考:健康な住まいを手に入れる本
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